「コードを書け、未来を創れ!」– ヨーロッパがAI時代に開発者へ投資すべき理由
AI時代において、起業家は開発者に投資し続けるべきなのか? 本記事では、Le Wagonの共同創設者兼エグゼクティブ・チェアマンであるボリス・パイヤールが、No-CodeやAIツールが進化する中でも、なぜコーディングが依然として不可欠なのかを解説します。
パリで開催された AIアクションサミット で、エマニュエル・マクロン大統領 は 1,090億ユーロ(約17兆円)のAI投資 を発表しました。しかしフランスやヨーロッパがAI分野でアメリカや中国と競争するにはどうすればよいのでしょうか?
データサイエンティストやAIエンジニアの育成が重要なのは間違いありません。 彼らはAI技術の基盤となる 大規模言語モデル(LLM)やデータベースを構築 します。しかし、それだけでは十分ではありません。AIを実用化し、ビジネスの現場で活用するには、もうひとつの重要な存在が必要です。それが 開発者(デベロッパー) です。彼らこそが、技術的な突破口を実用的なプロダクトへと変換し、AIを現実世界で活用可能な拡張性のある解決策に統合する役割を担っています。
アメリカの著名な投資家、例えばアンドリュー・チェン氏は、AIがコモディティ化し、APIやオープンソースモデルを通じて、より一層手軽に利用できるようになると予測しています。まさに 「Plug, Baby, Plug!(つないで活用せよ!)」 という流れです。
しかし、本当に価値を生み出すのは、それらの技術を活かしてネットワーク効果を発揮し、最適な方法でプロダクトを流通させること。このためには、AI専門家だけでなく、開発者やデータの専門家が不可欠です。
最近では No-Code(ノーコード)ツール や 生成AI が普及し、「もうプログラミングは必要ないのでは?」と思う人もいるかもしれません。ですが、実際に急成長している AIスタートアップの多くは、開発者(デベロッパー)なしでは成り立っていません。
例えば、世界的に有名なスタートアップ支援プログラム Y Combinator の最新の投資先を見てみると、AIエージェント開発企業が急増 しており、これらの企業の多くは月平均+10%の成長を遂げ、わずか1年足らずで数百万ドルのARR(年間経常収益)を達成しています。
彼らは単に既存のツールを組み合わせているのではなく、独自のAIソリューションを開発しており、それを実現するためにスキルの高い開発チームを抱えています。No-Codeは強力ですが、本当に差別化されたプロダクトを作るには、依然としてコーディングが不可欠です。

先日、X-HEC EntrepreneurMaster’sプログラムの起業家約15人とディナーをする機会がありました。彼らは全員、AIを中心としたプロジェクトを進めていました。彼らの多くは最初、MVP(Minimum Viable Product-最小限の製品)を完全にNo-Codeで開発しようと考えていました。No-Codeのスピード感や柔軟性に魅力を感じていたからです。
しかし、プロジェクトが進むにつれ、ほぼ全員がアプローチを見直しました。商業用WebサイトやCRM、ERPなど、一部のコンポーネントには引き続きNo-Codeを活用しつつ、AIのバックエンドや業界特化型ソフトウェアなどのコアな部分には、コードで開発することを優先するようになったのです。

この進化の過程は、多くのことを示唆しています。No-Codeは、ビジネスの立ち上げやアイデアの検証、業務の自動化において強力なツール です。しかし、差別化されたプロダクトやカスタムAIエージェントを開発する段階 になると、その限界が明確になります。
例えば、カスタマイズの制約、高度なシステムとの統合の難しさ、スケーラビリティの課題、そして学習コストの増大といった点が問題になります。No-Codeは万能ではなく、プロジェクトが進むにつれて、コードベースのアプローチが不可欠になる場面が増えていくのです。
具体的な例としてThomasとPaulのケースがあります。彼らは元Le Wagonのメンバーであり、起業家としての経験も豊富なNo-Codeのエキスパートです。
彼らは No-Codeトレーニング事業「Emil」 をLe Wagonに売却した後、行政手続きの自動化を専門とするAIスタートアップ「Akta Conseils」 を立ち上げました。
しかし、No-Codeに精通している彼らでさえ、100% No-Codeのアプローチは限界がある ことを理解していました。そのため、Le Wagon出身の開発者 DimitriとJulien とチームを組み、コードを活用してプロダクトを構築することを選んだのです。
なぜ彼らはコードを選んだのか?
それは、No-Codeだけでは、プロダクトの成長や競争力の確保において制約が生まれるから です。特に、AIエージェントの開発にはコードが不可欠 であり、技術の柔軟性や拡張性を確保するためには、開発者の力が必要だったのです。
この事例が示しているのは、No-Codeは強力なツールですが、本当に革新的なプロダクトを作るためにはコードの力が不可欠 であるということです。

多くの起業家がコーディングを学び続け、自身のプロダクトを立ち上げるためにLe WagonのWeb開発ブートキャンプに参加しています。例えば、Johnはその一人で、最近建築事務所やエンジニアリング企業向けのAIアシスタント「Jooc」をリリースしました。
AIの進化は、No-Codeにとって興味深いパラドックスを生み出しています。No-Codeツールは特定のAIコンポーネントを簡単に統合できる一方で、今後はAIをネイティブに組み込んだ新しいNo-Codeツールに取って代わられるリスクもあります。特定のNo-Codeプラットフォームを極めるために多大な時間を投資しても、それが1年後には時代遅れになる可能性があるのです。
それに対して、基礎的なWeb開発スキルを習得することは、長期的な投資になります。技術の進化に応じて適応できるため、毎回新しいツールを学び直す必要がないという強みがあります。
また、「No-Codeはシンプルで簡単」という誤解もあります。実際には、No-Codeツールの学習コストは過小評価されがちです。複数のNo-Codeツールを組み合わせてシステムを構築しようとすると、独自にコードを書いて開発するよりも、かえって複雑になってしまうことがあります。特に2025年においては、Cursorのようなコーディングツールを活用すれば生産性を飛躍的に向上させることができるため、No-Codeとコードのどちらを選ぶべきかという議論自体が変化してきています。
私たちはよく、
「No-CodeとAIの時代に、なぜ今さらコーディングを学ぶ必要があるのか?」
という疑問を耳にします。しかし、こうも問い直すことができます。
「AI時代に、すぐに陳腐化するかもしれないNo-Codeツールに投資する意味はあるのか? それよりも、しっかりとした技術基盤を築いたほうがいいのでは?」
もちろん、どちらのアプローチが正解というわけではありません。コードを学ぶか、No-Codeを選ぶか、それぞれの方法に価値があります。大切なのは、試行錯誤を重ねながら学び、自分の選択を十分に理解した上で前に進むことです。
No-Codeは多くの場面で有効であり、今後も急速に拡大していくでしょう。例えばデジタルマーケティングの分野では、Webflowを使ってランディングページや静的サイトを作成する方が、一から手作業で開発するよりも効率的です。
しかし、カスタマイズが必要な場合、HTMLやCSSの基本を理解していると、Webflowの操作がより直感的になり、自由度も格段に広がります。No-Codeを活用するにしても、基礎的なコーディングスキルがあることで、より柔軟かつ効果的に使いこなせるのです。

社内の業務自動化においては、Make、Notion、AirtableといったNo-Codeツールを活用することで、パーソナライズされたCRMやERPの開発や複雑なワークフローの構築が可能になります。ただし、ここでもデータベース、API、JSONといった技術的な理解があると、より高度なカスタマイズができるようになり、活用の幅が大きく広がります。
No-Codeは、あくまで「価値あるツールボックス」です。そのため、Le WagonではグロースマーケティングブートキャンプやSkill Course(Webデザインや業務自動化)のカリキュラムに一部のNo-Codeツールを組み込んでいます。しかし、「No-CodeとAIを使えば努力せずに簡単に億万長者になれる」といった誇大広告には注意が必要です。現実はもっと複雑で、No-Codeの真の価値は、適切に活用したときにこそ発揮されます。
実際、最も優れたNo-Codeの専門家の多くは、しっかりとした技術的バックグラウンドを持っています。例えば、フランスでNo-Codeの第一人者とされるShubham Sharma氏は、EPITA(フランスのコンピューターサイエンス専門学校)で学び、UCバークレーのCS61(コンピューターサイエンス基礎)を履修した後、開発者としてのキャリアを積みました。また、AirtableやMakeの自動化専門家であるJulien Mottet氏も、2018年にLe WagonのWeb開発ブートキャンプで学んでいます。
ヨーロッパでのコーディング教育の推進は、No-Codeと対立するものではありません。むしろ、コードとNo-Codeの両方を理解した人材こそが、最適なツールを選び、戦略的な意思決定を行うことができるのです。
今日、成功するAIアプリケーションは、単にChatGPTのようなモデルを接続するだけでは成立しません。実際には、適切なデータベースの設計、最適化されたワークフロー、高度なシステム統合、そして直感的なユーザーインターフェースといった、本格的な技術アーキテクチャが必要になります。
このプロセスにおいて、開発者の役割は非常に重要です。彼らはAIモデルをビジネスアプリケーションに統合し、データベースとの接続を管理し、APIを適切に活用しながら、パフォーマンスを最適化し、システムのスケーラビリティを確保します。カスタムAIエージェントは単なる言語モデルではなく、適切に構造化されたデータによって幻覚(ハルシネーション)を防ぎ、賢いワークフロー設計によって応答を具体的なアクションにつなげる仕組みが求められます。また、APIコールの管理やキャッシング戦略の導入によって、処理速度の向上とコスト削減を両立させることが重要です。
このような技術的な理解の重要性を示す好例として、フランスの大手AI企業「Mistral AI」の共同創業者であり、元デジタル担当国務長官のCédric O氏のケースがあります。彼は2024年にLe Wagonでコーディングを学ぶことを選択しました。これは、たとえテクノロジーの最前線に立つリーダーであっても、コーディングスキルの習得が不可欠であることを示しています。技術革新をリードするためには、コードの理解が単なるオプションではなく、今後のデジタル社会において欠かせない基盤となるスキルなのです。

このアプローチは、AIの開発をリードする場合でも、未来のアプリケーションを構築する場合でも、
コーディングが依然として不可欠であることを示しています。
例えば、Ruby on RailsのようなフレームワークやTailwindのようなライブラリを活用することで、開発者は短期間で堅牢なプロダクトを構築できます。さらに、AIを活用した生産性向上ツールの進化により、開発者の能力はさらに拡張されています。
その代表例がCursorのようなコーディングアシスタントです。Cursorを使えば、開発スピードは従来の10倍に向上し、まるで経験豊富なシニア開発者がそばにいて、新機能を素早く実装してくれるような感覚でコーディングができます。
しかし、この強力なツールを使う上で最も重要なのは、AIが生成したコードを理解し、適切に活用できるスキルを持つことです。AIのサポートがあるからといって、コードの本質を知らずに開発を進めることはできません。コーディングスキルがあるからこそ、こうしたツールの恩恵を最大限に活かすことができるのです。

ジュニア開発者の市場は現在、調整期を迎えています。しかし、この状況はAIの進化に直面しているすべての職種に共通するものです。AIや生産性向上ツールの発展により、テクノロジー、マーケティング、金融、法律など、さまざまな分野で少人数の経験豊富なチームでも、これまで以上の成果を上げられるようになりました。
2024年の景気後退により、多くのスタートアップが採用を抑制しましたが、フランスやアメリカで発表された大規模なAI投資により、今後数ヶ月の間に市場のバランスが再び変わる可能性があります。
それでもなお、コーディングスキルはこれまで以上に戦略的な価値を持ち続けています。企業がジュニア開発者の採用を減らしているのは、人材を減らしたいからではなく、より多才で、新しいツールを最大限に活用できる開発者を求めているからです。
急成長しているAIスタートアップを見ても、どの企業も開発者なしには成り立っていません。AIはエンジニアを代替するものではなく、むしろ彼らの能力を拡張するものです。しかし、その恩恵を最大限に活かすには、確かな技術力が不可欠です。コーディングは、単なる就職のためのスキルではなく、AI時代のツールを理解し、最適化し、効果的に統合するための基盤となるスキルなのです。
コーディングを学ぶことは、今後も賢明な選択であり続けるでしょう。それは、単にキャリアや起業のためだけでなく、技術の進化に適応し、自らの選択肢を広げるための手段でもあります。
フランス政府は、9つの「AIエクセレンスセンター」を設立し、2030年までに10万人のAI専門家を育成する計画を発表しました。この目標を支援するために、Le Wagonはグローバルな技術教育のリーダーとして、全面的にコミットしています。
Le Wagonのブートキャンプでは、革新的なAIソリューションを開発できるエンジニアや、AI向けのデータベース設計・管理を習得したデータエンジニアやデータアナリスト、理論と実践を兼ね備えたAI・データサイエンスの専門家を育成しています。これまでに200以上のスタートアップがLe Wagonから生まれ、総額10億ユーロ以上の資金調達を達成しました。その多くはフランスを拠点にしており、Le WagonはフランスおよびヨーロッパのAIエコシステムの発展に貢献する存在となっています。
AI時代において、確かな技術を持つ人材の価値はますます高まります。Le Wagonは、未来の開発者・データサイエンティスト・起業家の育成にこれからも全力で取り組んでいきます。

この連載では、Le Wagon Tokyoの卒業生を定期的に採用しているスタートアップ、ウェブエージェンシー、大手ハイテク企業など、Le Wagonの採用パートナーをご紹介します。各社のサービスや職場環境、そして何よりも、Le Wagon Tokyoの卒業生の魅力をご紹介します。